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■■バックパッキング旅行の技術■■
■総論■金はあるけど時間がないという人が短い休みにする旅行に合っているのが旅行社おまかせのパック旅行です。逆に、時間はあるけど予算が少ない人に合ったスタイルが個人で行うバックパッキングです。海外旅行はお金がかかると一般に思われていますが、時間と体力が十分にあれば、驚くほど安く済ませられます。これを利用して海外を歩くのがバックパッカーという人種なのです。実際、僕が9ヶ月で11ヶ国を旅したときに使った総額は60万円でした。これは日本で同じ期間ただ生活するよりも安いといえるでしょう。海外旅行でお金がかかるのはまず飛行機代ですが、長く海外にいて、めったに飛行機を使わなければ、飛行機代は安く済みます。あとは、世界のほとんどの国では日本よりも物価が安いので、経費を安く押さえることができます。これがバックパッキングの基本戦略です。 では、お金が安く上がるということ以外の、バックパッキングの積極的な魅力というのは何でしょうか。パック旅行を一度たりとも経験したことのない僕が言うのはナンですが、それはやはり自由であるということでしょう。団体ではなくて個人であるから、好きなところへ行き、好きなものを見、好きなことができます。のんびりしたくなったら一日中寝ていてもいいし、たまたまできた道連れと予定外のところへ行くのも自由だし、帰りたくなったらすぐに帰国してもいい。 そして、出会いがあります。バックパッカー向けの安宿に泊まっていると、世界中のいろいろな国から来た旅行者と出会います。多くの国を渡り歩いている同士なので、話して面白いし、すぐに意気投合します。ビールを飲みながら夜遅くまで語り合ったり、一緒に遺跡を見に行ったり、そのうちに、「じゃあお前、日本に来いよ!うちに泊まれ!」なんて話しになったりもします。 そして何よりも強調したいのは、現地の人々とのふれあいの機会が多いことです。団体で専用バスなどを使って移動するパック旅行とは違い、一人で電車やバスに乗っていると同乗の客と仲良くなったりします。地元の人が使うような大衆食堂で一人で食べていると、たまたま隣に座った人におごってもらったりすることもあります。人間が住んでいるところを訪れる以上、そこの人々と交流せずにどうするのか、と僕などは思います。それこそが旅行のもっとも楽しい部分であるし、登山や極地探検と違って他人の生活圏に足を踏み入れさせてもらっているのだから、住んでいる人々への感謝の念を忘れてはならないと思います。
■準備■情報収集 行きたい国・地域が決まったら、どの季節がいいか、言葉は何が必要か、予算はいくらくらい必要かなどを調べる必要があります。ガイドブックがもっとも手軽な情報源ですが、最近ではインターネットでかなりの情報を集めることができます。
ガイドブック ガイドブックは手軽で有用な情報源です。日本語では「地球の歩き方」が有名ですが、日本語のものは情報が少なく、間違った情報も多く、信頼性がかなり落ちます。英語がある程度読めるのであれば、英語のもの(Lonely Planet, Rough Guideなどが有名)を使った方が断然いいです。ただし、中国版については、漢字の問題があるので日本語のものが便利です。 言語 現地語ができれば理想的ですが、できないならば、英語などで用をたすことになります。英語が通じない国(例えば中国)もありますので、その際はそこで通じる言葉をある程度習得していく必要があります。僕の経験上、中国語は基本会話程度を覚えるのはかなり簡単です。発音と抑揚は非常に難しいですが、簡単な会話程度ならば抑揚を無視しても通じます。また、中南米ではスペイン語、アフリカの一部地域ではフランス語などが必要になるようです。南米のある国に行った人の話では、飛行機の中で配られた入国カードがスペイン語のみで書かれていてどこに何を書いていいのか分からず、さらに入国管理の役人が一言も英語を話せなかったそうです。言葉は、トラブルに巻き込まれたときに必要になるし、物を安く買うのにも便利だし、現地の人との会話が断然楽しくなるので、非常に重要な要素です。少なくとも、「トイレはどこですか」だけは現地語で言えるようにしておくべきだと思います。 パスポートとビザ 自分のパスポートの有効期限はチェックしておきましょう。国によっては一定以上の有効期間がないと入国を拒否されます。行きたい国が日本人にビザを要求しているかどうかはガイドブック(このときばかりは日本語のものが役に立つ)で調べるか、大使館に問い合わせます。状況が急に変わることもあるので、注意が必要です。多くの国は、日本人は日本でビザを取得してから来いという建前を掲げていますが、実際、僕は香港で中国の、オーストラリアでパキスタンの、パキスタンでインドのビザを取りましたが、いずれも日本で取るよりも速く安く取れました。このあたりは情報収集が重要になるところです。 保険 海外旅行保険に入るかどうかは悩むところです。一家の大黒柱の人ならば、死亡時に遺族がたくさん受け取れるような保険を買うべきでしょうが、僕の場合は扶養家族がいるわけでもないので、死亡時の受け取りは少なくして、他人に損害を与えた場合と盗難にあったときの補償を大きくした保険を、9ヶ月間を5万数千円で掛け、帰国後、盗難の補償がとれたのでモトがとれました。保険会社を選ぶ際には、自分の渡航先に連絡オフィスがあるかどうかを重視すべきでしょう。 航空券 どれだけ安く航空券を買えるかで予算がかなり変わってきます。アジアへ行く人の場合、まずバンコクまで行ってそこから目的地への安いチケットを買うのが一般的です。帰国して一年以内にまた旅立つ人の場合は、帰りに「バンコク−日本」の一年オープンの往復チケットを買うと安上がりのようです。 金はどうやって持っていくか 国によって円を両替すると余計な手数料がかかったり、レートが悪かったりします。そういう国へ行く際は、米ドルなどの使いやすい通貨に日本で先に両替してから持っていきます。お金はトラベラーズチェックに替えて持っていくと、盗まれたときに再発行できます。どの銀行のチェックを買うかは重要なポイントです。僕はアメリカンエキスプレスにしましたが、国によってどの銘柄が通用するかが異なるので、ガイドブックなどで調べるといいでしょう。クレジットカードを持っていくかどうかは議論のあるところです。一般的に、先進国でキレイ系の旅をする人には有用だし、途上国でドロ臭い旅をする人には利用価値は小さいでしょう。僕は持っていきませんでしたし、不便にも思いませんでした。 予防注射 アフリカと南米では、国によって黄熱病の予防注射が義務づけられているので、必要になります。それ以外の国では予防注射は義務づけられてはいませんが、していった方がいいものはあります。僕は狂犬病と破傷風をやりました。最寄りの保健所に電話すれば、どの病院でどの注射をしてくれるか教えてくれます。狂犬病はシャレにならない病気です。インドやネパールでは野良犬のほとんどが狂犬病を持っていると聞いたことがあります。(狂犬病を持っている犬の見分けかたもあるそうですが、僕は知りません) 狂犬病は、発病したら致死率が100%ですから、犬にかまれてから発病するまでの間に血清を打ちまくらねばなりません。病院のない田舎で犬にかまれたときのことを想像すると、注射をしていくのが賢明だと思います。A型肝炎については、僕はしませんでしたが、最近いいワクチンができたと聞きました。予防注射は、数回打つものや他の注射と間隔を空けて打つものなどがありますから、早めに計画的に打ちはじめる必要があります。
■持ち物■荷物は、小さければ小さいほど、軽ければ軽いほどいいです。飛行機の機内に持ち込めるかどうかはかなり大きな違いですし、バスや電車の中でひざの上に乗せて苦にならないほどであれば、防犯上も最高です。原則的に、現地で買えるものは現地で買った方がいいです。例えば石鹸や洗剤などはどこでも買えるし、日本で買うよりも安いです。服や下着なども、ダメになったら現地で買ってもいいのです。僕はそういう買い物をむしろ楽しんでいました。現地のマーケットやバザールで日用品を買っていると、その街の日常の様子や雰囲気が分かるような気がしました。 ですから、持っていくべきは、現地で手に入りにくいものと、品質が重要なものの2つです。 バックパッカーのシンボルがバックパックです。僕は55リットルのものを使いましたが、そのくらいが平均でしょうか。しかし、今また旅に出るならば、荷物をもっと絞れるので、もっと小さいものでいい気がします。55リットルになると飛行機の機内に持ち込めないし、なにかと不便です。聞いた話ですが、ベテランがバックパックを買い替えるときは、ほとんどの場合、前よりも小さいものを選ぶそうです。荷物を絞れるのが熟練のワザなのでしょうか。 シャワーで身体を洗うアカスリタオルは、日本以外ではなかなか手に入りません。スポンジと違って乾くのが速いので、まさにバックパッカー向きです。 欧米ではふつう耳の掃除に綿棒を使うようですが、僕などは耳かきでないとやった気がしません。そういう人は日本の芸術的なまでに精巧な耳かきを持っていくべきです。 移動中などの暇つぶしに日本語の文庫本を持っていくといいです。一冊だけ持っていけば、読み終わっても他の旅行者と交換できます。実際、多くの日本人旅行者が文庫本を持ち歩いています。 洗濯ヒモは必需品です。宿でベッドと柱のあいだなどにヒモを張って洗濯物を乾かすことができます。 意外に役立つのがテーピングテープです。荷物を縛ったり、蚊帳の穴をふさいだり、何かと使い道があります。何かで困ったとき、テーピングテープが使えるかどうかと考えると、意外に使えたりするものです。セロテープより強いし、ビニールテープと違ってべたつきません。 寝袋は、保温性が高くて小さくまとまるものという2つの難条件の中からの選択になります。僕はThinsulateという新素材のものを使いましたが、まあまあでした。掛け布団として使うことが多いので、横がジッパーになっていて開いて一枚にできる形のものがいいです。 シュラフカバーはとても重宝しました。シュラフカバーは本来、雪山で寝るときに寝袋をこの中に入れて防水を図るための袋ですが、暑い地域ではこれに入って寝ると蚊がよけられるし、寝袋ほど暑くないです。素材は絶対にゴアテックスでなければなりません。 登山用の保温下着は軽くて荷物にならないので、手軽な防寒着です。僕が使ったポリプロピレンという新素材のものは、暖かく、汗を発散し、乾きやすいという優れものでした。 薬関係は持ち出すとキリがないですが、持っていると安心できます。海外の薬は日本人には強すぎるという話しもありますし。気候によって喉をやられることがあるのでイソジンうがい薬は重宝しました。風邪薬、解熱剤、下痢止め、アカチン、虫よけスプレー程度は持っていくべきではないでしょうか。体温計もあった方が安心しますし、便利です。
■ボラレないために■ボラレるのは悔しいですし、相手に「日本人はカモ」と思わせると、後から来る旅行者に迷惑がかかります。聞いた話ですが、「日中友好」と言って一切値切らずに言い値で払いながら中国を旅行していた人がいるそうです。冗談じゃない。バカにされることで友好関係が築けるでしょうか。相手が真剣にふっかけてくる以上、こっちも真剣に値切らなければ、ある意味で相手に失礼です。メーターのない乗り物(インドのサイクルリキシャーなど)に乗るときは始めに料金交渉が必要です。メーターのあるタクシーでメーター通りの料金で行くことに交渉がまとまっても、悪質な運転手は遠回りしたりするので、注意が必要です。ですから、メーターのある乗り物でも目的地までいくらで交渉してから乗るといい場合もあります。 タクシーの場合も買い物の場合も共通ですが、こっちが相場を知っておくと交渉に有利です。僕は、買いたいものや行きたい場所があるときは、先に地元の人(例えば宿の主人)に相場を聞いておきました。相場を知らずに、例えば言い値の半額を目標に値切ったりすると、相手が始めに4倍の値段を言っていれば結局2倍払うことになり、相手に味をしめさせることになります。 インドやパキスタンでの経験上、現地語で交渉すると、英語で交渉したときよりも値切りがうまくいきました。また、乗り物で料金を交渉したとき、英語と現地語の両方で値段を確認しておけば、トラブルを防ぐことができます。英語は13と30、14と40などの音が似てるので、そこでダマされかねません。
■貴重品の管理と危険回避■どうやら日本のパスポートは高く売れるようで、日本人は常に狙われています。(聞いた話では、盗まれた日本人のパスポートは香港の闇市場に流れていって悪用されるそうです。インドで盗まれた僕のパスポートは今ごろどこで何をしているのでしょう??)パスポートや金などの貴重品の管理には細心の注意を払うべきです。貴重品袋には首から下げる型のものと腰に巻く型のものがありますが、僕は腰の方が好きでした。首から下げているとわずらわしいし、薄着をしているときはそこに貴重品をぶら下げてるのがバレバレになります。しかし、どんなに注意をしていても、常に最悪の可能性を想定して準備しておく必要があります。アフリカや南米の一部の国では、突然なにも言わずに刺されたりすることもあるそうですから、たとえ腹に巻いていても万全ではないのです。ですから、どれを盗まれてもそこから立ち直れるような態勢をとっておくべきです。まず、パスポートの番号・発行年月日・発行地、トラベラーズチェックの番号(使ったチェックの番号も記録しておく)、大使館や保険会社などの連絡先をメモにして、いろいろなところに身につけておきます。靴の中底の下に挟んでおくのもいい方法です。僕は靴の中底の下に、50ドル札を一枚とパスポートのコピーを入れておきました。パスポートを提示しないと普通はトラベラーズチェックを両替してもらえないので、パスポートのコピーは役に立ちます。 親切を装っている悪人と本当に親切な人との見分けはしだいにできるようになっていくものですので、場数を踏んで慣れていくしかないでしょう。ただ、詐欺などの被害例・どんな手口があるのかについて知っておくとかなり違います。ガイドブックなどに載っている被害の実例をたくさん読んで、頭に入れておくといいです。 どうも猿岩石ブーム以降、たいした下準備も注意もなしに「行っちゃえばなんとかなるだろ」とポーンと旅立つような人が増えているようで、よくない傾向だと思っています。実際に旅先で殺されたり行方不明になったりする人が多くいる以上、「なんとかなる」というような簡単なものでないことは自明でありましょう。さらに、殺された日本人がお金をたくさん持っていたりした場合、その先その地域で日本人が標的にされるということがあります。ですから、ことは自分だけの問題(自分が責任をとれる問題)ではないのです。 旅先ではさまざまな危険が待ち受けています。その危険を避けつつ実り多き旅をするためには、知識・経験・体力・判断力・語学力・コミュニケーション力などの人間のさまざまな要素が必要とされます。ですから、バックパッキングは楽しいのと同時に、自分が試されるテストの場でもある、と僕は考えています。
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