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■■出発の記■■
成田の滑走路。1995年5月13日。離陸を待つボーイングの中に、不安と緊張でカチコチになった20歳の僕がいた。隣席のビジネスマン風の男は新聞を広げていたが、こっちにはそんな余裕などない。いろんなことを考えて頭がグルグルまわっていた。大学を一年休学、ひとつ世界を見てきてやらぁ、と威勢よく旅立つのはいいのだが、なにせ初めての海外だ。飛行機の乗り方も知らなかった。入国手続きのしかたも分からない。何より、英語がヘタクソだ。病気になるかもしれない、盗難に遭うかもしれない。「海外旅行のABC」なんて本を買ったのはいいが、バイトなどで忙しくてあまり読む暇がなかった。あの本、持ってくればよかったかもしれない。機は滑走路に出、離陸の番が来た。ジェットが噴射して急加速が始まり、シートに押し付けられる重力に、予期していなかった僕は思わず、(う、わわわわ・・)と声をもらすところだった(少しもれたかもしれない)。 機は空高く昇って行き、雲の上に出た。シートベルトを外していいとのサインがでたが、つけたままにしておいた。機内の温度は快適に保たれているのだが、不安が僕を肌寒くしていた。頭の中を駆けまわるいろんなものをすこし黙らせようと、ビールをガブリと飲みこんだ。
飛行機の中では酔いがまわると聞いていたが、確かにそうだった。頭の中の歯車がゆっくりになって、身体がほぐれた。シートを少し倒して、フーッと大きく息をついた。 しかし、考えてみれば、金とパスポートさえあれば他にどうしても足りないものなんて無いわけだし、逆にいえば、この2つさえあれば他のものはすべて調達できるってことだ。それならば、あとは全て俺の才覚にかかってるわけだ。武器はそろってる、あとは使う人の能力次第ってことか。面白え。ようし、世界ってものがどんなものか、俺の能力がどれだけか、試されてやろうじゃねえか。俺だってそんなにヤワじゃねえ。20年間に蓄えた知識・経験・体力、そのすべてをぶつけてやろう。「どうにかなる」でも「どうにもならない」でもない、「どうにかしてやる」だ。そう、その気持ちでいこう。うん。ヒック。 そうして、成田でオドオドしていた少年はノッシノッシと香港・啓徳空港に降り立っていった。
○旅行記の先頭 1、出発の記 2、南太平洋編(←続きはこちら!) 3、東アジア編 4、南アジア編 ○「旅行の技術」 |