イタリア紀行・食文化に接す

 

 8月中旬、日本から呼び寄せた母とニュージャージーに住む妹と妻君を伴いイタリア各地を旅した。団体行動が苦手なものだから今までツアーというものを利用することがなかったのだが、今回は高齢の母を伴うことと言葉が通じない不安もありニューヨーク発の日系旅行代理店の添乗員付きのツアーを利用した。母は今までに何度か日本発のヨーロッパ団体旅行を経験しており、今回の訪問先の一つのローマやポンペイの遺跡などは行ったことがあるということだった。話によると今まで行ったツアーは全食食事付きだったそうだ。言葉の通じない国で食事をすることはなかなか大変なものである。大変だからといって省略するわけにもいかない。そういった配慮から食事付きなのであろう。ところが我々のツアーはホテルでの朝食のみついているだけであとは個人任せというものであった。多分、ニューヨーク発の場合はある程度英語は話せるなんとかなるという前提があるのであう、結構ほったらかしなのである。お陰で気楽に出歩き食べ歩くことが出来き、僅かではあるがイタリアの食文化に触れることができた。

 イタリアはまずミラノに到着、市内観光などを終えチェックインし自由の身になった頃は夕刻。この国では3時頃から7時頃までレストランは殆ど閉まっているのである。しかし腹は減ってたまらない。「何でもいいや、でもマクドナルドはいやだ。」(どこへ行ってもあるマクドナルドには恐れ入ります。)ということで入ったのはピザのファーストフード店。本場のピザかどうかは分からないけど、ともかくイタリアのピザを食った。腹が減ってただけにこれは実に美味かった。ちなみにピザにタバスコなど辛いものをかけるのはアメリカ風の習慣が日本に伝わったものだそうでイタリアでは使わない。中途半端な時間に食事をしたものだから夜はもういいやということでスーパーマーケットで酒とつまみでも買ってホテルで飲もうということになった。スーパーの雰囲気はアメリカとそう変わりはなかったがレジで袋代をとられたのには驚いた。とられたくない人は自分で買い物袋などを持ってくるのだ。飲ん兵衛の我々はその夜買った2本のイタリアワインを軽く飲み干した。

 ロミオとジュリエットで有名なヴェローナの町で初めてリストランテ(レストラン)で昼食をとった。メニューに英語も書いてあるのだが見慣れないものだから概要を理解するのに時間がかかる。ウェイターが結構英語が通ぜず辞書で覚えた変なイタリア語を交えてどうにか注文する。ここで食べたスパゲッティーカルボナーラはある本に書いてあった通り「本場のカルボナーラは生クリームは使わない」ものが出てきた。ベーコンに軟骨がついているのがイタリアのベーコンの特徴である。麺は程よい硬さのアルデンテ。味見させてもらった母の食べてたシーフードスパゲティーも美味かった。請求書に心当たりの無い名前と金額が書いてあるので問いただすとテーブルチャージだという。損をした気がしたがその後どこのリストランテでもとられたのでこちらの習慣であることが判明する。

 ベニスはイタリアのみならずヨーロッパの避暑地だそうで観光客でごった返していた。ヨーロッパの新婚旅行ナンバーワンもここだそうだ。この不思議な光景の町は今まで散々映像や写真で見ているが目の当たりにするとこの町が実存していることに強烈な感動と衝撃を与えられる。物価は高く観光旅行者を食い物にするような不快な感じはあったがイカ墨のリゾットは美味かった。ディナー付きの「ゴンドラセレナーデ」というオプショナルツアーに参加したが声量のあるおっさんのカンツォーネを聴きながらの船遊びはなかなか風情があったがディナーはまあまと言うところ。ツアーで行く食事はたいしたことはないらしい。またしても飲ん兵衛の我々は他のテーブルが一杯のワインしか飲んでいないのにビールは飲むはワインは飲むはで食事はさておき上機嫌になっていた。

 フィレンツェではガイドブックで目をつけた店がなかなか見つからずいい匂いがすると適当に入った店がなかなかよろしかった。イタリアのフルコースは前菜の後、パスタ類の第一の皿、サラダなどを挟んで主菜となる第二の皿、そしてデザートというのが一般的。一つ一つの量はそれほどでもないが全部食べると相当な量になる。ここではオッソブッコと呼ばれる子牛の骨付き肉の料理を食べた。よく煮込まれた肉もさることながらとろけた骨髄を食べるのがこの料理の真髄。フィレンツェ料理は比較的味が濃いらしい。

 フィレンツェ二日目の晩に入った店はお勧めである。「イル・キアッソ」(Il Chiasso)という名のリストランテはシニョーリア広場の路地を入った所にある。残念ながら名前を覚えていないがその店お薦めの細かい粒のようなパスタの入ったスープのような小皿が美味しかった。こう毎日イタリア料理の外食ばかりしていると飽きそうなものだがそれがそうでも無いから不思議だ。ところで、イタリア人に「どこのレストランが美味しいか」と聴くと「うちのおふくろが一番」と言う答えが返ってくるという。素材の味を大切にし、包丁の技術もそれほど必要としないイタリア料理は調理方法も簡単で家庭でもレストランでも作り方はあまり変わらないらしい。そこで慣れ親しんだおふくろの味が一番ということになる。

 旅はまだ続く。

(8/31/98)


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