暮れから正月にかけてヴァーモント州キリントンにスキー旅行に出かけた。一昨年は酷寒、昨年は暖冬で雪不足という二年連続不運なスキーバケーションであったが今年は雪の状態はよく天気も気温も程よく楽しい休日を過ごすことができた。
最後の日のスキーを終えロッジのバーで一杯やっている我々の前でバンドが心地好いカントリーロックを演奏していた。ギターを弾きながらリードボーカルを務める中年とおぼしき男性はかなり頭の方は禿げ上がっているものの、張りのある声でバンドをリードしギターの技量もなかなか大したものであった。地元産の生ビールは乾いた喉を潤し、運動後で血液の循環のよくなった身体全体に勢いよくアルコールを行き渡らせ数日にわたるスキーによる適度な筋肉痛を癒してくれる。じつに気持のよい瞬間である。そして目の前ではイイ音楽をやっている。大変得をした気分になった。
アメリカで感心することの一つに人前でお金をとって演奏している人の中で下手な奴のいないということが上げられる。劇場やライブハウスはもとより街頭でパフォーマンスする人に至るまでみんな上手いのだ。たまに下手なのがやっていようものなら猛烈なブーイングにあったり、拍手なしという無言の報復を受けたり、街頭でやっているものに対してはもっと直接的な“お金をもらえない”という如実な結果となって現われる。こういった芸人に対する聴衆のシビアな態度が高い芸術性を生み出す土壌となっているのであろう。売れないことをやっていても生きてゆくことはできない。やっているほうも必死にならざるを得ない。
日本語で言うところの大道芸人、英語風にいうとストリートパフォーマー、ストリートミュージシャンといったところか、実はニューヨークでは今は警察から絞めだされ余り街頭では見かけなくなった。いなくなったわけではない。地下鉄の構内に場所を変えちゃんと活動している。先日見かけた黒人のブルース歌手はよく響く声で地下鉄の騒音などものともせず迫力のある歌を聞かせており思わず聞きほれてしまった。こういった大道芸人の中には自分の演奏をカセットテープなどにして売っている人もいてメジャーになるチャンスをうかがっているのだ。偶然通りがかりに聞くにはもったいないと思うほどよい演奏をしている人たちが沢山いるのには驚かされる。
ミュージカルは個人的にはあまり好んで見にゆくことはないのだがブロードウェイといえばニューヨークの名物でもあるので結構見る機会がある。ミュージカルのレベルの高さは別格である。出演者は役を取るために日夜精進を続け厳しいオーディションを勝ち抜いた強者どもばかりである。一旦役をもらったらそれでおしまいという訳ではない。病気や怪我でもして休めば代役にその座をうばわれてしまう。代役もそのチャンスをものにするために必死で頑張る。まさに弱肉強食の世界である。大分前に「ドリーム・ガールズ」というミュージカルを見たとき三人の主役の歌の上手さにいたく感動し数日後に再び見にいったことがあった。ところが数日後にはそのうち何人かが別人であった。そしてなんと二度目の方がもっとよかったので更に感動してしまったということがある。この層の厚さには唯々驚かされるばかりである。人気ミュージカルは何年ものロングランを続けているが、片や客足が伸びず開幕後一週間で幕を閉めたというミュージカルの話も聞く。ミュージカルのメッカであるところのニューヨークだからこそのじつに厳しい現実なのである。(2/8/96)