東洋の戦士

 今期、アメリカの大リーグ、ロサンゼルス・ドジャースに入団した元近鉄バッファローズの野茂投手の最近の活躍は素晴らしい。当初は登板の度に好投しながらも勝ち星に恵まれなかったがその好投が先発のローテーションの座を確実なものにしていった。そして一旦勝つと勢いがついた。7月1日現在で6勝1敗、最近2試合は連続して完封勝ちをしている。また奪三振数109はナショナルリーグではトップである。7月11日に行われるオールスターゲームへの出場も確実と言われている。アメリカの新聞もこの東洋の快腕投手の活躍ぶりを取り上げている。野球ファンならご存じかも知れないがアメリカ大リーグは昨シーズン途中チームオーナーと選手側の交渉のもつれから選手がストライキに入りシリーズが中断され第二次大戦中も中断されず行われたワールドシリーズの中止という前代未聞の事態に陥った。地元ニューヨーク・ヤンキースはトップの位置にいただけに野球ファンとしては実に残念であった。今シーズン開始寸前になっても交渉がまとまらず開催が危ぶまれていたが辛うじて4月後半になって開催にこぎ付けた。シカゴ・ホワイトソックス傘下のマイナーリーグで大リーグ出場の夢の実現に闘志を燃やしていたバスケットボールのスーパースター、マイケル・ジョーダンはこの野球界のごたごたに幻滅したと言い残し、突如NBA(全米バスケットリーグ)の古巣シカゴ・ブルスに返り咲き逆にバスケットボールファンを喜ばせる事となった。
 開幕はしたものの野球ファンの方もファンを無視したこの事態に呆れどこの球場も空席が目立ち、近年見られる野球離れの兆候に拍車をかける結果となってしまった。地元、ヤンキース(アメリカンリーグ)とメッツ(ナショナルリーグ)も現在のところ低迷を続けており興味を失いかけていた時だけに野茂投手の活躍は野球観戦に身を入れるいい材料となっている。

 話変わって私の勤めるニューヨーク育英学園の少年野球チームのお話しである。子供たちの体力増強を目指し誕生し週2回の練習を続けてきたこのチームだが、実はまだ他のチームに対し勝ち星がないのである。昭和29年生まれの私にとって少年時代野球は遊びの一部であり毎日のように近所の仲間と空き地に集まっては陽が暮れるまでボールを追いかけ、自然と技術を身に付けていったものである。我が学園の子供たちは時代も環境も相当違うところで育っているのでそういうわけにはいかない。チームの対象年令は小学校4年生から6年生であるが、入部したとき野球をやるのが初めてという子供が殆ど。キャッチボールもしたことがないというのだ。まさに一からの指導の始まり。子供たちには習い事に追われる子も少なくなく、野球が終わった後はピアノだの塾だのに飛んでゆく子もある。また週2回の練習のうち1回はテニスがあるから出られないなどという子もいる。「どっちかにしろよ!」と心の中で呟くがこの野球も習い事の一つと考えている親の意向にも逆らえず「頑張れよ」と声をけるしかない。今の世の中なかなか子供の意志だけでは事は運ばない。野球のルールはいささか難しいので週2回の練習ですらなかなか身に付くものではない。だからたまに練習に来る様な腰掛け部員はどんどん取り残されてゆく。

 子供が野球を始めて喜んでいる親もいる。野球で少年時代を過ごした親の世代には野球の思い出もたくさんあるのであろう、野球を始めてからよく家でキャッチボールをするようになったという話なども耳にする。上達に目を見張らせる子の陰には親のバックアップがあるのである。しかし我がチームを取り巻く環境は厳しい。アメリカのチームがシーズンオフの夏場になると試合のチャンスが訪れるが忙しい駐在員の子弟だけあってこういう時にかぎって一時帰国や旅行で肝腎なメンバーが試合に出られない。また有望株の突然の帰国ややっと使い物になったころに訪れる卒業。というわけでなかなかベストナインがそろわない。今年は今までアメリカ人チームと3試合しているが勝ち星はない。しかし時々見られる好プレイは目を見張るものもあり、希望の光も見えてきた。まずは1勝を目指し、果ては大リーグで活躍する野茂投手を目指し、自分が少年時代描いていた夢をこの子供たちにも見させてあげたいと思うのである。(7/1/95)


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