同時多発テロその後

 紅葉の美しい季節になった。しかしいつものこの時期とは様子が違う。街には星条旗があふれ9月11日のテロ事件以来の憂鬱な気持ちが充満している。世間は一見平穏な生活を送っている。私も普通に仕事をし、ごく普通に生活をしている。しかしこれは平常心のもとでの生活ではない。私を含め多くの人、多分殆どの人が次ぎなるテロの恐怖を心の隅に持ちながら生活しているだと思う。生物兵器に関しては当初から心配されていたがそれが現実になってしまった。炭疽菌という一般人にとって耳慣れぬこの言葉は今や知らぬ者はいない。まだ同時多発テロとの関係は明らかにされていないが被害は広がりつつある。フロリダで最初の発症が報告されたときはまだ人事であった。ニューヨーク、ニュージャージーにも発症者が出たとなるとそうはいかなくなってきた。
 テロリスト達は高度な技術を持っていると考えられている。炭疽菌の精製がそれを証明している。そんなテロリストが米国にいや世界中に何人存在しているかわからないが次の機会をうかがっていると思うとぞっとする。政府、市、日本領事館などは象徴的な建物に近づくな、人の集まるところには行くな等、最高度の警戒をするように呼び掛けている。
アフガニスタンへの空爆が始まって緊張の度合いは一気に高まった。ブッシュ大統領は最初から「これは戦争状態である。」「必ず報復する。」と戦意むき出しの会見をした。強いアメリカを振りかざし絶対やっつけてやると意気込んでいる。事件発生の時、「第二のパールハーバー」「パールハーバーの再来」というような発言するする人がいた。政府高官までが真珠湾攻撃を引き合いに出した。奇襲ということで共通するものがあるかもしれない。しかし戦時下においての軍人同士の戦いとこのテロ事件とは本質的に異なるものであり引き合いに出されるべきことではない。アメリカ人の中にはアラブ人を隔離したほうがいいと主張する者がいるという。第二次大戦時に米国にいるドイツ系移民やイタリア系移民はさておいて日系人(彼らだって立派なアメリカ人であった)に対してだけ行った不当な差別と同じ事をしようと思うアメリカ人が実際にいるのだ。自由の国アメリカ、あらゆる人種を受け入れてきたはずのアメリカでも歴然としてある白人至上主義の現れと言ってもよい。
 戦争状態になることをニューヨーク市民ははたして望んでいたのであろうか。アメリカの標的はアフガニスタンという国ではなくテロリスト集団である。しかしイスラム原理主義のタリバン政権を壊滅しウサマ・ビンラディンを捕えるという名目で始めた戦争で罪もないアフガニスタン人が犠牲になっている。一連のテロが非道な行為であることに疑いの余地はないが、犠牲者の数こそ違えアメリカも同じことをやっているのだ。ニューヨークではブッシュ大統領の発言に反し当初から反戦運動が持ち上がっていた。ニューヨーカーは戦争よりも平和を望んでいる。
 ニューヨークのジュリアーニ市長は立派である。彼は自分の統括する街があんなひどい目に遭ったにもかかわらず戦争を容認するような事は言わず、街の復旧に精力を注いでいる。アラブ人を敵対視したり差別してはいけないと説き、罪のないアラブ人が被害に遭わないよう気を配っている。事件以来、超多忙な毎日を送っているに違いないのに、スポーツ観戦などにも積極的に出掛け、市民に普通の生活に戻るよう呼び掛けた。空爆が始まったときには一層厳重になった警戒体制の中「市民の皆さまには迷惑をかけるが辛抱強く協力して欲しい。」と。
自ら大のヤンキースファンである市長はヤンキースタジアムにはよく顔を出す。この野球のスタイルもテロ事件以来変わった。7回表の攻撃が終わると第2のアメリカ国歌として愛唱される「God Bless America」か「America the Beautiful」が必ず歌われるようになった。観客席にも星条旗があふれている。
 テロ事件後、ニューヨークの重要な収入減である観光業は大きな影響を受けている。ニューヨークへのツアーは軒並みキャンセル、ブロードウェイは閑古鳥。レストランも商売あがったりだそうだ。人々は外出を控え、そのため消費が減り、景気の落ち込みに拍車をかけている。街は重苦しいムードに包まれている。活気に溢れるニューヨークが戻ってくるのはいつの日になるのだろう。(10/24/01)


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